前回は色彩値の成り立ちと数値化の道筋を概観しました。
しかしながら産業の世界では色彩値そのよりも色と色の差、色差のほうが重要になります。
なぜなら、生産物として必要な基準となる色を決めたら、如何にその基準の色に近い色を生産するかに関心があるからです。色彩値そのものにはあまり関心がありませんでした。
この辺の事情は近年変わりつつありますが、依然として色差が最も重要であることに変わりはありません。
前回説明したL*a*b*色空間は概ね人間の色覚に均等な色空間になっているため、色の知覚差はその距離で計量化することができることになります。
まず、L*a*b*色空間に基準となる色の色彩値をプロットし、次に生産した色の色彩値をプロットします。この空間上の距離を色差として考え、ΔE76として数値化しました。
ΔE76は1976年に規格化された色差式という意味です。ちなみにこのΔEの「E」はドイツ語の「Empfindung=感覚」に由来しています。(ハズカシながら、はじめ「ERROR」の意味かな?と思い違いをしていました...)
3次元デカルト空間の距離は所謂ピタゴラスの定理で求めることができ、以下のような簡単な式で求められます。
図-43 L*a*b*空間の距離=ΔE76
こうして求められた色差の数値の意味は以下のように定義されています。
色差 ΔE* | 名称 | 適用 |
0.2以下 | 測色不能領域 | |
0.3 | 識別色差 | 同一物体の測色再現精度 |
0.6 | 1級(厳格色差) | 各種の誤差要因を考えた場合の実用的な許容差の限界 |
1.2 | 2級(実用色差a) | ならべて判定した場合に、ほとんどの人が容易に色差を認める事ができる |
2.5 | 3級(実用色差b) | 離間して判定した場合に、ほぼ同一と認める事ができる |
5.0 | 4級 | 経時比較した場合に、ほぼ同一と認める事ができる |
10.0 | 5級 | |
20.0 | 6級 | 色名レベルの色の管理 |
出展「色彩科学ハンドブック」
一般的には、
- ΔE=1程度で2つの色を横にくっつけて見比べた時に違いが判別できるレベル
- ΔE=2~3程度で2つの色を離して見比べた時に違いが分かるレベル
- ΔE=5程度で2つの色をかわるがわる見比べた時違いが分かるレベル
Japan Colorなどでも、標準印刷認証はΔEを5程度で管理しますし、プルーフ認証は並べて本紙とプルーフを比較するためΔE=2~3の許容範囲が用いられているのはこのレベルで色差を考えているからです。
このΔE76は簡単に計算できるため大変重宝なのですが、ΔEの値が3以下程度の小さな色差が問題となる生産の現場では人間の知覚との相関がずれてくることが問題となっていました。
皆さんも色の生産の現場で基準色に対して生産色の官能評価をおこなう仕事をしている方なら経験があるのではないかと思います。
たとえば、グレーなどの無彩色だと人の目はかなり色の差に敏感になります。
ΔE76=1.5程度の色差のグレーでも比較的簡単にその差が目についてしまうのではないかと思います。反対に彩度の高い色ではΔE=3-4ぐらいあってもあまり違いが分からなかったりします。
そうすると、出荷の基準がΔE<2.5だとすると、グレーのΔE76=1.5のサンプルはOKということになりますが担当者としては「こんなの出荷してもいいのかなー」となりますし、彩度の高い色のΔE76=3は「えー...これで出荷できなかったら歩留まり悪くて仕事にならないよ...」なんてことになりまねません。
そうすると勢い「やっぱり視覚評価じゃなきゃ駄目だなー」となってしまいます。ですから、より視覚との相関性の良い色差式の開発が望まれるようになりました。
次回はその辺の話をしたいと思います。
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