前回の「色差について」で説明したように、L*a*b*の色空間は小さな色差(ΔEで5以下程度)での判断が必要な用途では、人間の視覚判断との相関が良くありません。
たとえば、人は無彩色の違いに対しては非常に敏感ですが、彩度の高い色に対しては無彩色ほどには敏感ではありません。
上の例のように、無彩色ではΔE76で1.5と小さな色差になっていても視覚的には大きな色の違いに見えたり、鮮やかなグリーンではΔE76で3.5程度の色差があっても視覚的にはそれほど大きな違いに見えなかったりします。
このような問題は、人間の色差に対する視感における色の弁別閾、小さな色の違いが認識できる範囲を色度図上にプロットすると図44のような大きさの異なる楕円形になるために生じています。
図44 視覚の色弁別域のxy色度図上へのプロット
このような小さな色の差における、数値による色差判断と視覚による色差の判断の相関性の問題が色の数値管理上の問題になっていました。 つまり、測定による色差の値を元に出荷判断がし難いため、ビジュアル判定に頼らざるを得ないと言う状況が生じてしました。
この問題を解決するには2つのアプローチの方法があります。
- 1つは、L*a*b*の色空間を人間の視覚にマッチするよう改めてしまう
- もう1つは、ΔEが視感とマッチするような色差を補正する仕組みを開発する
最初の色差式の調整は1974年Roderick McDnaldによって開発されました。
当時の補正式は極めて簡単で
のような式でした。
クロマC(彩度)が大きくなるほど色差の値が大きく割り引かれることなるため、彩度の高い色でΔEが小さくなるよう調整されることになります。
その後、さまざまなサンプルを用いた視覚テストとの相関性を改善するための色差式が色々と考案されてきました。
現在ではCIEが2000年に開発したΔE2000が最も一般的に使用されています。
ΔE2000はCIELabが持つ視覚上の不均等性を補正するために明度、彩度、色相の各値に対応させた補正のための係数を導入しています。
おおざっぱに言うと下のような式になります。
SL、SC、SHがL、C、Hの各ポジションによる補正係数です。
ここでは詳しく示しませんが、興味のある方は色んな文献で紹介されていますので調べてみてください。
少々ややこしい式ですが、簡単に言うと図45のように彩度に関しては無彩色で厳しく彩度の高い色で寛容な、色相で言うとオレンジ方向で厳しくグリーン方向で寛容になるように係数が調整されています。
図45 a*b*色度図上のΔE00の許容弁別閾の楕円閾
kL、kC、kHはリファレンスの観察条件から異なる観察条件での視感との相関を取るためのパラメータで、標準観察条件を使用する場合は通常1:1:1を使用します。
ちなみにリファレンスの観察条件はCIE116で下記のように定義されています。
- 照明:D65シミュレーション
- 照度:1000 lx
- 周辺色:L* = 50 の無彩色グレー
- サンプルサイズ:錐体の立体角4°以上
- サンプル色と基準色:エッジコンタクト
- 色差範囲:0~5 ΔE76
現在では多くのブランドオーナーがこのΔE2000を使用した許容範囲で仕事を発注するようになってきています。
おすすめの参考資料
-
測色入門ウェビナー|オンデマンドウェビナー
本ウェビナーでは、色の数値管理・デジタル化による品質管理について、測色計や標準光源装置の導入にあたって必要な知識をゼロからお伝えします。
-
カラーコミュニケーションガイド|ホワイトペーパー
本書は色のノウハウを紹介するガイドです。アートやカラーサイエンスの初心者・上級者を問わず、正確な製品色を確保し、ブランドイメージを維持するための、購買意思決定の瞬間を左右する情報を提供します。
-
印刷とパッケージのカラーマネージメント|業界ソリューション
フィードバック式のソリューションは、一貫性と予測性のある色を指定、コミュニケーション、作成、監視します。
関連製品一覧
色と見えの原理:オンライン(FOCA)「色と見えの理論」のオンラインコースは色の基礎知識を提供、測色&データの理解や、信頼のおけるカラー品質プログラムとは何かを説明します。 |
お問い合わせや、無料相談・無償機材貸出・製品見学会のお申込はこちら