POLというのは濃度測定時に使用するフィルターで、Polarization Filterの略で偏光フィルターを意味します。 濃度測定の際にこのフィルターを使用した測定を行うことで有効な情報が得られる場合があります。
偏光フィルターは通常濃度測定のみに使用し色彩値測定(たとえばL*a*b*測定)には使用しません。 偏光フィルターの役割は測定する光の成分から表面反射の影響を除きます。 ですから、印刷物測定の場合、色材内部からの反射のみを評価したい場合に使用します。 印刷された基材(用紙)上のインキフィルムの塗膜内にどれだけ色材が含まれているかを判断する場合に有効なのです。
偏光フィルターによる測定の仕組みは、たとえば、照明する光をあらかじめ特定の方向に直線偏光させておいてからサンプルに照明します。 そうしておいて、受光側では照明側の偏光とは直交ニコルの方向性を持つ偏光フィルターを通して受光します。
通常、印刷物の観察のモデルおよび測定器の受光モデルは、図-9のように表面からの反射光と色材内部(基材での散乱も含む)からの内部反射の2つの要素を同時に受光して評価しています。 表面反射はインキがぬれた状態のウエットの場合と、乾燥後のドライの状態では反射状態が大きく変化します。 乾いたアスファルトの道路に水を撒くとアスファルトが濃く見えるようになりますが、 これは、アスファルトの表面が撒かれた水によってスムーズになるため、表面反射が正反射方向に集中することで目に受光される表面反射の光量が小さくなるために生じます。 一方、色材内部からの内部反射は乾燥の前後で大きな変化はありません。このため、インキフィルム塗膜内の色材量を特定するには表面反射を除去した内部反射のみの測定が都合が良いのです。
図-9 POLフィルターなしの照明と受光
POLフィルターを使用した測定では図-10のように表面反射の成分は受光器前のPOLフィルターでカットされてしまいます。 これは表面反射の光の性質が照明光の性質と同じ*ため、直交ニコルに配置したPOLフィルターをすり抜けることができないためです。
図-10 POLフィルターを使用した照明と受光
* 一般的に光子自体は特定の偏りを持っているとされています。 ただ原子が放出する1つの光子は〖10〗^(-8)秒程度なので次から次へと放出される光子で構成される一連の光では平均化されて特定の偏りがありません。 POL測定では、直線偏光子などを使用して特定方向に偏りを持たせた光を照明として用います。
表面反射における反射光の偏りは、照明光の偏りと完全に同じというわけではありません。 たとえば、入射光面内に偏った光は屈折光の角度と直角となるブルースター角では全く反射されないため、偏光後の照明光から表面反射される光の一部は失われてしまいます。 しかしながら、そうであったとしても、表面反射からの光は受光器前のPOLフィルターでブロックされてしまうため、内部反射のみの特性を受光できるということに変わりはありません。
このようなPOLフィルターのもう1つの大きな特徴は、高濃度部における濃度と色材濃度(インキ膜厚)との線形性の改善にあります。高濃度部ににおいては表面反射の影響が大きくなります。 つまり,暗い部分では表面からの少しの反射光でも濃度値に大きな影響をもたらすのです。 このため図-11にあるようにPOLなしの測定では高濃度部で濃度が頭打になり線形性が悪くなります。 これに対してPOLを使用した測定では方面反射による不要な拡散光が受光されないため高濃度部においても比較的良好な線形性を確保できることになります。
図-11 高濃度部におけるPOLあり/なしによる線形性の違い
POLフィルターを使用した測定は、濃度でインキ膜厚(色材濃度)を管理するには効果的な方法といえます。 このため、印刷機の壷管理用の測定に(特にウエット・オン・ウエットのオフセット枚葉印刷では)多く使用されています。 ただ、私たちの実際の見た目の濃度は表面反射を含んだものを観察しています。このため、見た目との相関性を重視した濃度測定ではPOLを使用しません。また、色彩値測定などではPOLを使用した測定値は使用されません。 (POLを使用した色彩値はISOの色彩値とは認められていません。)
濃度測定にPOLを使用すべきか、使用すべきでないかは状況によります。 印刷の生産品質管理としては使用する価値は十分にあると思います。 しかし、かならずしもPOLを使用しなければならないということは無いと思います。 POLを使用しない場合のウエット濃度の測定では,ウエット濃度とドライダウン後の色彩値(L*a*b*)との相関をあらかじめキチンととった上で自社基準濃度(ハウス・スタンダード)を設定しておくことが重要になります。
いずれにしても、POLを使用した濃度測定を使用するか、POLを使用しない濃度測定を使用するか、どちらかにキチンと決めて運用することが重要になります。